『メタボラ』桐野夏生
今週は、火水木で、桐野夏生の新刊『メタボラ』を読んだ。朝日新聞で連載していたのだが、新聞は一度読み損ねるとなかなか続かなく、新刊の発行を待っていた。
以前、週刊文春に連載していた『グロテスク』があまりにおもしろく、一気に好きな作家になってからもう6年。『メタボラ』は、『魂萌え!』に続いて、新たな作風を示したように思う。
事件をモチーフにして、人間の深層心理を抉り出した『グロテスク』、『リアルワールド』。それが極限まで行き過ぎて、自分としては後味の悪い『残虐記』『アイム ソーリー、ママ』。ミステリーを超えて極上のエンタテインメントにまで達している『OUT』『柔らかな頬』。
『魂萌え!』『メタボラ』は、そんな流れとはやや趣を異にし、昨今の社会問題を背景に、そこを生きる現代人の姿を映し出した作品だ。相変わらずその状況描写と心理描写は、凄まじいばかりだ。
『メタボラ』の舞台は、沖縄のやんばる、本部、名護、恩納村、那覇、宮古などなど。沖縄は過去10回の滞在でかなり隅々まで行き尽くしているので、そのどれも光景がありありと浮かぶ。
主人公のギンジは、家庭崩壊から過酷な人生を歩むことになる。なのに、この話しはなぜか重く暗い感じがしないのはなぜだろうか。
それは、亜熱帯の気候のイメージが何もかもをポジティブに彩るのと、ギンジとジェイクの若い2人のバックパッカーのような日々が、ぎりぎりの貧窮生活ながらも夢を感じさせるからなのだろうか。(作者にその意図があったかどうかは疑問だが)。
しかし他でも書かれているが、5月27日付朝日新聞の本書書評は、全文にわたって的をはずしていないだろうか。
とくにラスト、「謎めいたタイトル『メタボラ』がその意味を開示するクライマックスは、まさに圧巻だ」とあるが、クライマックスは、桐野作品のなかでも極めて淡々としたものだ。このように特筆して評を締めくくる要素は、ないと思いますが。。
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