【ブログ開設1年】リパッティのシューマンとウルトラセブン最終回 (3)
(この記事は、同タイトルリパッティのシューマンとウルトラセブン最終回 (1)からの続きです)
セブン最終回に使用された、シューマンのピアノ協奏曲の音源にたどり着くまで、あと一歩だ。しかしその壁は高かった。中学生の身で、同じ曲のレコードを片っ端から買うわけにはいかない。中学生に大人買いは無理だ。買う前に音さえ聴くことができれば、と心底思った。
そんななか、しばらくして2枚目を買った。
クーベリック指揮、バイエルン放送交響楽団、ピアノはケンプだったと思う。
どういう理由でこれを選んだのかは、覚えていない。しかし、これも違った。ルービンシュタイン盤ほどの違いはなかったが、本質的に演奏の質が違うように思った。
そうこうしているとき、あることに気付いた。セブン最終回の放映は、1968年。音源は、少なくともこれよりあとの録音ということはありえない。当時、クラシックのレコードには、録音データが書いていないものも多かったが、明らかに1968年以前のものを買えば、「当たり」に近づくはずだ、と。
そして3枚目を買った。
アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団、ピアノはディヌ・リパッティ
レコードの帯には「死を予感したリパッティ、鬼気迫る演奏」といった内容のキャッチがあった。これに違いない! 録音も十分に古いし、「鬼気迫る演奏」というのがぴったりだ。
しかし、この演奏は、かなり近いところまで来た気がしたものの、それでもあの最終回に使われたものではなかった。
さすがにため息が出た。いったいあと何枚買えばいいんだろう。。これ以上買い続けて、あの演奏にたどり着くのだろうか。。と。
そして、途方にくれていた中学3年のある日。友人にこの話をしたところ、「うちに来て、兄貴のレコードを聴いてみればいい」という予想外の展開になった。彼は、自身でもクラシックを聴くが、7歳年上のお兄さんが、かなりのコレクションを持っているのだった。

そして、1975年の秋、新大久保に程近い友人宅。当時大学4年生だったお兄さんは、にこにこしながら、青いジャケットのレコードを持ってきてくれた。
「シューマンのピアノ協奏曲と言えば、やっぱりこれだよ」
お兄さんは、レコードをターンテーブルに乗せ、針を落とした。
「ジャン!ダダーンダダンダダンダダンダダンダダンダダンダダンダダン、ダン、ダン!」
これだ! まさにこれだ! 1968年の初回放映から7年、ついにめぐり合えたのだ。
カラヤン指揮、フィルハーモニア管弦楽団、ピアノは、ディヌ・リパッティ
なんと、3枚目で買った同じリパッティの別の演奏だった。どおりで、いちばん似ているはずだ。僕の感動ぶりを見て、お兄さんも友人も満足げだった。このときの光景は、今でも鮮明に脳裏に焼きついている。
この7年で、すっかり感覚で理解した。クラシック音楽は、同じ曲でも演奏によって違う表情になる。そして、同じ演奏者でも同じ演奏は二度とない。
それから、30年以上が経った。さまざまな演奏会やCD、レコードでクラシック音楽を聴いてきて、それなりの人生経験を積んだ今でも、セブンの最終回は、全く色褪せることはない。映像と音楽とドラマが、ジグソーパズルがぴったりと完成するがごとく、見事に一体化している。それは驚くばかりだ。
そして数多あるシューマンの演奏の中でも、セブンの最終回にはこの録音しかない。
美しくも哀しく、運命に抗うかのように切迫した推進力を持って、先へ先へと進もうとするこのリパッティの演奏でなくては、あの迫真の場面を彩ることはできないのだろう。
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コメント
実に感動的ですね。幼少の頃から探し続けた音源を遂に見つけた感動は何ものにも替え難いものだったでしょう。特にセブン最終回ラスト近くの名場面ですからねぇ。サントラ盤のラストもその音源で締めて欲しい事この上無いです。
投稿: T.A | 2007年4月30日 (月) 09時05分
懐かしい! 今、この時代にリパッティが登場するとは!この盤を購入したのは何時ごろのことか忘れたが随分昔のことだ。
モノラル録音。1948年。
リパッティの「叙情性」は格別で、揺れ動くテンポ、ハカナゲなところが、何ともいえない。魅力的である。
投稿: sound box | 2007年4月30日 (月) 15時17分
T.Aさん
ほんと、7年かけて霧が晴れた感じでしたね~。
冬木透氏は、「考えてみたら<アンヌのテーマ>がなかったので、シューマンにした」と言っているので、もし<アンヌのテーマ>があったら、シューマンがなかったんですね~。
そうだったら、自分のその後も変わっていたのかもしれないと思うと、不思議です。
投稿: paienne | 2007年4月30日 (月) 15時58分
sound boxさん
こんにちは。
sound boxさんは、ウルトラセブン世代よりも上でいらっしゃいますよね。
リパッティのシューマンは、録音から20年の時を経て、1968年のセブンの最終回に使用されました。
購入された頃のお話など、断片でも思い出されたら、ぜひお聞きしたいです!
投稿: paienne | 2007年4月30日 (月) 16時19分
こんにちは。お久しぶりです。
ブログ開設1周年なのですね、おめでとうございます。
ところで。
このような形でウルトラセブンとクラッシク音楽が結びついていたとは驚きです。8歳の時に聴いた音楽にこんなにも衝撃を受け、以後求め続けたなんてすごいです!
素敵なお話をありがとうございました。
投稿: こあら | 2007年5月 2日 (水) 12時55分
こあらさん、お久しぶりです!
私のエピソードにコメント頂き、ありがとうございます。
セブンからは、他人と共生していくこと、音楽の感動、それから、女性は天使にも悪魔にもなれること、を学びました^^;
こあらさんは、ご覧になったことはありますか?
投稿: paienne | 2007年5月 2日 (水) 21時01分
ウルトラセブンは子供の頃見たような気がします。
でも、ウルトラマンはエースの時代なもので確かな記憶はないです…
って、こんな事書くと年がバレちゃいますね(笑)
投稿: こあら | 2007年5月 3日 (木) 06時14分
子どもが同じ年だから、同世代ですよね^^
いま、セブンは東京MXテレビで42話までやってますが、5月6日19:30から毎週日曜、ファミリー劇場でも第1話からスタートします。もしご覧になれる環境でしたら、ぜひ^^
投稿: paienne | 2007年5月 3日 (木) 12時01分
リアルタイムに観ていた時、4歳児だった私は最終回の記憶は殆どありませんでした。4歳年長の姉はラストのダンとアンヌが写真のネガティブのようになって、正体を告白するシーンを記憶してました。それにしても独力で件の演奏を見つけたとはすごいの一言。大人になってからビデオで観た時、既にシューマンのピアノコンチェルトは知ってましたが、それ以上の探究心は起きませんでした。他の演奏のLPやCDは所有してますが、機会があればリパッティ/カラヤンの演奏を入手したいと思います。
投稿: ys | 2008年4月 7日 (月) 19時25分
ysさん、はじめまして。コメントありがとうございます!
ysさんは、ということは、1963,64年あたりのお生まれですね。もしかして、お姉様と60年生まれの私は同じ歳かも知れませんね^^
確かに、どうして子供時分にそこまであの音楽にこだわったか、不思議な気もします。今でもクラシック音楽を聴いているのは、あれがきっかけだったのか、生まれつき好きだったのか、どっちなんでしょうね。
ぜひぜひ、リパッティ盤も聴いてくださいね! 念のため、アマゾンのアドレスをはっておきます^^
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B0-%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%B3-%E3%83%94%E3%82%A2%E3%83%8E%E5%8D%94%E5%A5%8F%E6%9B%B2-%E3%83%AA%E3%83%91%E3%83%83%E3%83%86%E3%82%A3-%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%8C/dp/B000TLYF7E/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=music&qid=1207572357&sr=1-1
ありがとうございました! また遊びに来てくださいね!
投稿: paienne | 2008年4月 7日 (月) 21時57分
二度目の書込み、失礼します。
先日、何気に新星堂に立ち寄ったらリパッティ/カラヤンのシューマンのピアノコンチェルトを見つけました。早速購入し聴いてみると、冒頭のダンの告白、マグマライザー発進の命令を下すキリヤマ隊長、怪獣の出現、セブンの正体は実はダンだったと他のメンバーに告げるアンヌ、ウルトラ警備隊員たちの驚愕と援護射撃、アイスラッガーで怪獣を倒し、よろけながらも立上り宇宙の彼方へ去っていくセブン・・・部分々々のシーンが脳裏に甦ってきました。我ながらはまってるなぁと思います。GW中ジュリーシャポーへ行ってきました。壁に飾ってあるダン直筆の水彩画に感心、残念ながらダン本人とは名古屋へ出動中という事で会うことは叶いませんでしたが・・・。実はシューマンのピアノコンチェルトのスコアを買って、ほんの数小節まで練習してますが本当に難しい。音大OBの姉によると最も難しいコンチェルトの部類に入るのだそうです。ちなみに私にとってウルトラセブンとはオリジナルのみを指してます。平成もXも別の話と思ってます。
ところでブログ主さんのご職業は音楽とは無縁?クラシック音楽に対する造詣の深さは趣味の域を超えてると思いますが。
投稿: ys | 2008年5月 5日 (月) 12時23分
ysさん、こんにちは!
リパッティ盤聴かれたんですね! 嬉しいです。やはり最終回はあれしかないですよね~。
僕も下手くそながらピアノを少し弾くのですが、シューマンの協奏曲、1楽章のカデンツァはわりと楽ですよ^^; 一度お試しくださいませ^^
僕もysさんと同じで、ウルトラシリーズは、ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブンで終了です(笑)。その後のものはこどもだましで、見るのをやめてしまいました。
>ところでブログ主さんのご職業は音楽とは無縁?クラシック音楽に対する造詣の深さは趣味の域を超えてると思いますが。
ありがとうございます。まさに、趣味+アルファ、ぐらいな感じです。
異動や転職をしながら仕事をしてきた24年の社会人生活のなかで、音楽雑誌や書籍の編集をしていた時期が、半分強あります。といっても、クラシックよりもポピュラーものが多かったのですが。。
また高校、大学時代は(音高、音大ではありませんが)、楽器を習ってオーケストラで演奏したり、その後も洋邦のオケの演奏会には頻繁に通っております。
またぜひ、遊びに来てくださいね! よろしくお願い致します。
投稿: paienne | 2008年5月 5日 (月) 16時35分
初めまして。ずいぶん亀コメントですみません。
私はブログ主様よりも3歳歳下になりますので、セブンをリアルタイムで観た最後の世代かもしれません。
でも、私も例に漏れず最終回のあの名場面が忘れられず、シューマンのピアノ協奏曲を買って確かめたことがありますので、このブログにはとても共感いたしました。
今はネットのおかげで、テレビ番組は別に一期一会でもなく、いくらでも止めて再生できるようになりましたね。1975年当時の環境でそこまでたどり着かれたのは、偶然というよりも、熱意が引き寄せた必然だったように思います。
私は神戸在住ですので、「ウルトラ警備隊西へ」の各シーンに非常に引かれていました。その中でアンヌ隊員が高級外車に乗って「異常ありません」と報告するわずか3秒ほどのシーンですが、バックの異人館風の建物が気になって気になってしかたがなく、ロケ地がどこなのかずっと探していました。
最近ひょんなことから、それが異人館ではなく、ホテルだということがわかりました。しかもそのホテルがあった跡地に、いまの私の勤務先の関係施設が建っていることを知った時には、とんでもなく驚いた次第です。
小さなシーンでも、気になるものは気になるもので、あとは第48話冒頭のシーンにある、フクロウの壁掛け時計のメーカーと型番がとても気になっています。
長くなりましたが、今後のご活躍をお祈りしています。
投稿: brucelee | 2012年11月 4日 (日) 08時26分
bruceleeさん
コメントありがとうございます。
同じ世代で同じような体験をされてきた方からこのようなコメントをいただくと、たいへん嬉しくおもいます。
キングジョーの2話、見ごたえありますよね。近いうちに、bruceleeさんご指摘のシーンに注目しながらみてみます^^
ところで、宣伝になってしまいますが、この最終回とシューマンの話を大幅加筆したものが、来春ぐらいに本として出版されることになりました。そのせつはこちらのブログでも記事にします。
ぜひまた遊びに来てくださいませ^^
今後ともよろしくお願いします。
投稿: paienne | 2012年11月 4日 (日) 15時33分